いよいよ陣痛室へ。
が、
お腹の張りを調べるモニターをつけられ、内診されて子宮口の開き具合を調べられるも、
まだ張りも弱いし、子宮口も開いていないので当分かかりそうとの見立て。
もっともっと強い陣痛が定期的に来るようじゃないと、
赤ちゃんを押し出す力にはならないと言われてショックを受ける。
こんなに痛いのにまだ弱い!? これからどんだけすごいの来るのさ!?
でも恐ろしいことに、痛みは容赦なくレベルを上げてくるんですね。
助産師さんが持ってきてくれた大きなビーズクッションに突っ伏して、ひたすら痛みに耐えていると、
そのうちうめくだけじゃ足りなくなって
「痛い~~~、痛い~~~」と訴えるようになりました。
これも意識してのものではなく、ごく自然に言葉が出てきてのもの。
同室の妊婦さんたちも口々に声を上げていて、
なんかもう、さながら野戦病院。
阿鼻叫喚、戦々恐々。
そんな中、唯一の希望の光が助産師さん。
ほとんどつきっきりのように側にいてくれて、
ウィダーインを飲ませてくれたり、腰をさすってくれたり、
励ましてくれたり。
不安な気持ちを支えてくれ、さらに肉体的なケアも万全。
陣痛の場では(「陣」とはよく言ったものだと思う。ほんとにこれは戦です)、
助産師さんは絶対の存在です。
まるで母親のようでした。
助産師さんが離れると、お母さんとはぐれた子供のように不安で心細い気分になります。
これから自分が母親になろうというのに。
そして戻ってきてくれると、とても安らいだ気分になって安心する。
これはたとえ立会い出産だとしても、夫では与えられない精神的な支えだと思う。
助産師さんはすごい。
病室で一人で耐えていた頃より、ずっとずっと痛みは強いけれど、
助産師さんが側にいる今の状態のほうが楽。
楽だけど痛みはやはりハンパ無いので、弱音が口をつく。
「帝王切開にしてください」
とか。
もう一刻も早く陣痛から開放されたくてされたくて。
だからといって帝王切開にしてもらえるわけもなく、
「帝王切開も痛いよ」とたしなめられて終わりですが。
そうこうしているうちに、また陣痛と陣痛の合間に少し眠ることができるようになってきたので、
助産師さんに腰をさすってもらいながら短いスパンでうとうとを繰り返して朝を迎えました。
夜通し陣痛に耐えている間に、子宮口も開いてきたらしく、
当初夕方といわれていた出産も少し早まりそうだとのこと。
朝食が運ばれてくるも、食欲まったく無し。
夜中にウィダーインと水分を少しとった程度なので、ジュースだけでも飲まないとダメと言われ、
ほとんど無理やりジュースを飲み、キャンディを舐めて糖分補給。
かなり自分の体が消耗しているのがわかりました。
ろくな睡眠が取れていないので、目も充血していてとても痛い。
今鏡を見たら相当酷い顔してるんだろうなあ。
陣痛室も朝の光で満たされて、病院全体が目覚めた活気が廊下から伝わってくるけれど、
よれよれのちゅり星人は昨夜からの疲れを引きずったまま。
もう陣痛はこれ以上の責め苦は無理レベルに達していて、
引いたと思ったら腰が爆発するような痛みがまたすぐ襲ってくるという状態。
自覚は無いものの、助産師さんが破水を確認したらしく、
いよいよいきんで生み出すところに来たことを教えてもらう。
いきむ。
出産の時はいきむもんなんだというのは知ってるものの、
どこにどうやって力を入れればいいのかよくわからず、今まで漠然としていたのですが、
やはり人間の体は不思議なもので、
お産が近づいてくると自然に下腹部に力が入りそうになってくるんですね。
力が入りそう、むしろ力を入れたい、そんな感覚が誰に教わらなくても備わってるんですね。
自然の仕組みってすごい。
とはいえそれに任せて漫然といきむのではなく、やはりきちんとコツがあって、
痛みの波がピークに来たときでないと、いきんではいけないらしいのですね。
痛みの波が最大になった時にいきんで赤ちゃんを押し出すという感じ。
逆にそうじゃない時にいきんでも、出てこないだけではなく、
かえって無駄に体力を消耗するだけなのでダメだそうです。
痛みの波が上昇している間はいきみたくなるのを我慢して息を吐いて、
(痛みを逃がすと言います)
痛さがピークになったところですかさず息を止めて、
排便するときとまったく同じ、肛門に力を入れて「いきむ」のが正しいやり方だそうです。
......そう。
赤ちゃんは別のところから出てくるわけですが、
力を入れるところは肛門なんです。
なんつーか......。
なので、夢のない話ですが、分娩時に一緒に便が出てきてしまうこともあるようですよ。
それを防ぐためにお産の前に浣腸を施す病院もあるようですが、
これまたうまくできているもので、
人の体は自然にお産の前に排便をすまそうとする働きがあるそうで、
ちゅり星人の入院している病院では浣腸をせず、自然のままに任せているそうです。
(助産師さんの話では、浣腸をした便より自然のままの便のほうが、
万が一出たとしてもコロンと取り除きやすいとのこと......)
確かに食事をするたびにトイレに行く羽目になってつらかったけど、
これも自然の摂理だったということ。
そしてお尻関係でもうひとつ。
結局一番楽な姿勢だったので、
陣痛時から四つんばいになる感じでビーズクッションに突っ伏して、
そのままの姿勢でいきんでいたのですが、
いきむたびに助産師さんが押してくれるんですよ、
ぐっと、
肛門を。
そして驚くことに、押してもらうと確実に楽になるんです。
最初は痔とか脱肛とかしないようにお尻を保護してくれているのかなとも思ったのですが、
あるいはこれもお産をスムーズに乗り切るための方法なのかも。
このころにはもう余裕もなくなっていたので、聞けなかったけど。
いきむというのは実際やってみるとかなり加減が難しく、
なにより大変だったのが、いきんではいけないところでやって来るいきみたい衝動を我慢すること。
ここぞ! というタイミングで、強い痛みのピーク時にいきまないといけないものの、
それ以外のやや弱い痛みのときにもいきみたくなってしまう、
その衝動を逃がすことがかなり難しい。
ひたすら体の力を抜いて、息を吐いて耐えるんですが、
例えて言うなら、排便時に大きなウンコが出そうなあの瞬間、
体は出したい、ふんばろうと自然に反応しますよね。けれどそこで強制ストップかけられるそんな感じ。
ね、困難でしょ?
出産話なのに肛門周りの話ばかりになってしまってスイマセン。
しかし実際の出産にロマンもへったくれもないのです。
もう必死です。
あなたも私もそうやって生まれてきたのです。
しんどさに
「吸引分娩してください......」
と弱音を吐くも、励まされ、とにかく頑張る。
もちろんこの間も絶賛陣痛中です。
もう痛みを耐えるという感じではなく、
とにかくこの痛みを終わらせる(=出産)ために積極的に頑張るという状態です。
受身から攻めの姿勢へ自然に変化するのです。
降りられないエスカレーターなら、もう終着点まで一刻も早くたどり着くしかない、
そんな感じで根性が固まります。
で、まあそうやって何度もいきんで頑張って......してもなかなか出てこない。
そのうちにちゅり星人の体力がなくなってきてしまい、
痛みが来てもいきむことができなくなってきてしまいました。
消耗してしまったわけです。
「もう無理です......。ヘロヘロです......」
クッションに突っ伏したままぐったりしているちゅり星人、
陣痛促進剤が使われることになりました。
へろへろの手で同意書にサインをし、モニターをつけられて、点滴で薬を入れられ、
弱くなった陣痛を人工的に強く引き起こします。
加減をしながら徐々に薬を強くしていくと、
来るんだこれが。
お手本のような強い陣痛。
「い、いきみたい......」
持ち主にはお構いなしで、体のほうが反応して、赤ん坊を押し出そう押し出そうとしだします。
強い陣痛なので、いきむタイミングも取りやすく、
ぐったりうつぶせていたのに、起き上がってもうヤケのように頑張る。
根性値突入です(ブレスオブファイア)。
HPは0になってますが、もう根性値で動いてます。
お腹につけてるモニターからは、元気よく赤ん坊の心音が聞こえてきます。
母体がこんなに消耗しているのに、赤ん坊は力強く脈打って頑張っているんですね。
お産が長引くと、赤ちゃんも弱ってしまうこともあり、そうなると危険なのですが、
ちゅり星人の子供は元気。
助産師さんが励ましてくれます。
「ほら、赤ちゃんも頑張ってるよ。あと少しですよ!」
産まれてくるときは赤ん坊も苦しいらしいのです。
狭い産道を命がけで出てくるわけだから、そりゃ~早く出してあげないとつらい。
だから、いきんでいない時はできるだけ息を吸って、
酸素をいっぱい取り込んであげる必要があるわけです。
まだ肺で呼吸もしていない状態なわけで、赤ん坊の唯一のライフラインはへその緒。
母体がいっぱい酸素を取り込んであげないと、お腹の赤ちゃんも苦しい。というわけ。
こちらとしてもなんとか楽になりたい。
向こうも早く出てきたい。
利害は一致しているわけです。
つまり出産は母親と子供の共同作業。
どちらか一方が頑張って産まれてくるものではなく、二人で力を合わせて産まれてくるものなのですが、
なかなかスムーズにいかない。
「もう出てきて!」
懇願です。
助産師さんが素早く内診して、赤ん坊の位置がだいぶ下がってきていることを教えてくれる。
「もうすぐ頭出るよ! あとちょっと!」
うへえ。
何回繰り返したろう。
なかなかそこからうまく進まなくて、もうヤケを通り越して臨界点突破。
あのね、ドラマの出産シーンとかあるじゃないですか。
女優が分娩台でう~~~んとかそれっぽく唸ってるやつ。
なまっちょろいよあんなの。
甘い甘い。
子供一人産み出す時のマジもんのいきみはあんなもんじゃ~ござんせん。
言語化できません。
うおあああああ とか ふんぬおおおおお とか ぐおおおあああ とか うぬあああああとか、
なんかそんな感じのテイストのもっとすごい声が多重奏になったものが出ます。
頭の血管切れんじゃないかというくらい。
そしてそして。
「頭出てきたよ!」
......わかりました。
骨盤がめきめきめりめりと開いていく感覚!!
出産でなにが一番鮮明な記憶かと言えば、この骨盤が開いていく感覚でした。
硬い大きなもの(頭)が通る時に、無理やり骨盤を押し開いていくあのなんともいえない感覚といったら......!
音が聞こえたもの。
さすがに実際に外に響いたわけではないだろうから、多分脳内でだと思うんだけど、
めきめきめりめりってね。
この衝撃は、例えていうなら、自分の骨が折れる瞬間を体感した時の感じに似ているのではないでしょうか。
あ、今折れた! という認識。
そのとききっと脳内では骨が折れる音を鮮明に聞いていると思うのですよ。
実際に耳に届いているかどうかは別として、最短距離で脳みそに響いているその音を。
この骨盤が開いた感覚と同時に、その開いた部分に何かが挟まっている感覚がしました。
頭が出てきたんですよ。ようやく。
「分娩室行きますよ!」
そしてまたベッドごと、今度は分娩室へと運ばれていくのでした。
その4に続く。


